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メンバーが直接ファンと触れ合う握手会は、AKBグループの人気を支える大きな柱だ。

「誕生日おめでとう。いつも支えてくれてありがとね」

NGT48ファンの新潟県燕市の会社員男性(30)にとって、握手会でメンバーから掛けられた言葉は宝物だ。

「何度も通うことで顔や名前、誕生日まで覚えてもらえる。だんだん距離が縮まる感覚が楽しくて、
今では悩みを打ち明けられるほど仲良くなった」と魅力を語る。
男性は交通費も含め年間で100万円以上をNGTの応援に使うという。握手券が同封されたCDは通算で2千枚以上買った。
人気メンバーほどファンの列が長くなる握手会は、メンバーの人気が可視化される場だ。

また、AKBグループの一大イベント「選抜総選挙」は年1回、ファン投票でメンバーを直接順位付けする。
ファンは自分の応援するメンバーを上位に押し上げようと何十枚、何百枚と投票券付きのCDを買う。
いわゆる「AKB商法」だ。熱心なファンの中には友人や同僚にウェブでの投票を頼んで回る人もいる。
社会心理学を専門とする新潟青陵大大学院の碓井真史教授(59)は「育てる喜びは人間に本質的に備わっている。
妹や娘の成長を見守る感覚に近い人もいるのではないか」と分析する。
一方で、握手会や総選挙はメンバーにとって競争心をあおられる仕組みでもある。知名度やファンからの評価を上げようと、
動画配信アプリやSNSを毎日のように更新するメンバーも多い。「ファンとの近さ」をアピールするアイドルにとって、こうした発信は活動の一部ですらある。
こうしたビジネスモデルそのものが事件につながりやすいとの指摘もある。

碓井教授は「SNSを介したコミュニケーションは実際以上に親しい関係と錯覚しやすい」と述べた上で、ファンへの過度な信頼は危険とみる。「非常識な行動に出るファンも出ている。安全を確保するためのルールを徹底させるべきだ」と話す。

今回の事件では加害者が、被害を受けたメンバーの向かいの部屋を借りていた。ストーカー被害の相談に携わるNPO法人「ヒューマニティ」(東京)の小早川明子理事長(59)は、「メンバーのマンションにまで移り住んできたとしたら、もはやファンではなくストーカーだ。いずれ取り返しがつかないことが起きかねない」と断じる。

地域密着を掲げるNGTは、行政や企業とタイアップした取り組みも多い。小早川さんはAKBビジネスが業界で定着しつつあることに危機感を隠さない。
「ファンの接近欲求をあおるような仕組みを社会的に容認していいのかどうか、改めて考えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

http://www.niigata-nippo.co.jp/sp/news/national/20190209450043.html