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(前略)

■最大の見どころは順位ではない? 「選抜総選挙を誰が盛り上げるのか」

 AKB48選抜総選挙も10年目となり、メモリアルイヤーとして今年は海外48グループメンバーも参戦する「世界選抜」をうたっている。昨年は指原莉乃が24万6376票で1位に輝き、2位は昨年末でAKB48を卒業した渡辺麻友の14万9132票。3位以下に大きな差をつけていたその2トップが今年は不在なだけでなく、NMB48の山本彩、AKB48/NGT48の柏木由紀も出場せず。総選挙上位常連のトップアイドル達が出場辞退、卒業といったことが相次ぎ、“本命不在”といえる状況だ。事実、7位以下の票数はほとんど僅差が続く団子状態。誰が抜きんでてもおかしくない。

 08年結成のSKE48は10周年イヤーであり、地元のナゴヤドーム開催だけに松井珠理奈は前回の3位からの“天下取り”を宣言。また、前回4位のHKT48の宮脇咲良は「博多で獲った旗は博多が引き継ぐ」と3連覇した指原に続き、首位戴冠を標榜。また、51枚目シングル「ジャーバージャ」でセンターを飾った前回9位でAKB48/STU48の岡田奈々は「総選挙でもセンターを獲りたい!」と意欲を燃やす。昨年速報1位、最終結果5位の“シンデレラガール”NGT48の荻野由佳は今年も速報1位を記録。NMB48の白間美瑠も「てっぺん取ったんで!」と頂点を目指し、各グループの看板を担うメンバーが首位奪取をロックオンしている。

 しかし、“本命不在”の今年だからこそ、選挙順位に映らないインパクトに期待したい。誰が選抜総選挙の盛り上げをけん引するのか? という点こそが今年の総選挙の見どころではないだろうか。

■“結婚宣言”で大バッシングを受けた須藤凜々花、だが結果としては一人勝ちに

 ここで、昨年第9回の結果を振り返ってみよう。AKB48も歴史を重ねて、さまざまなスターが生まれた結果、上位が固定化されていた。誰が抜きん出るのかというアイドルの熾烈な闘いを垣間見られる総選挙本来の見どころとは異なり、「今年も指原かな」などある程度上位メンバーが予想できる“予定調和”の傾向が見られた。そうした状況の中で、誰もが予想していなかった形で話題をかっさらったのが、突然の結婚宣言を行ったNMB48(当時)の須藤凜々花である。

 「私、須藤凜々花は…結婚します! 迷惑だとわかっているんですけど、自分にも皆さんにもウソをつきたくないと思っています」と恋愛禁止の48グループの制約を飛び越えての結婚宣言。前代未聞の行動により、総選挙会場のアイドル達は叫び、怒り、悲しみといったメンバーの様子もテレビに映し出された。世間の反応は、「支えてきたファンへの裏切りだ」「恋愛禁止だけれど、確かに結婚禁止とはうたっていないはず」「この度胸はすごい」といったさまざまな意見が噴出したのである。

 メディアの報道も須藤一色となり、昨年の総選挙の結果は指原が史上初の3連覇という偉業を成し遂げつつも、世間のイメージは「須藤が世に出た回」といってもいい結果となった。しかしながら、見方を変えると、須藤はある種の閉塞感のあった総選挙に、スタンドプレーで風穴を開けたともいえるだろう。このハプニングにより、アイドルファンでない層にも総選挙の話題が広がっていった。昨年のAKB総選挙を引っ張ったのは間違いなく須藤だったのだ。

■生放送ならではのハプニング…アイドルたちの“生々しさ”こそが魅力 

 昨年は須藤のスタンドプレーにより、阿鼻叫喚の絵図となったが、これこそがAKB総選挙の魅力の一つ。昨年は須藤に対して渡辺麻友が険しい表情で視線を送っている姿が映し出され、11位のAKB48高橋朱里は壇上から「ファンの皆さんが複雑になることを言うメンバーを見て、胸が痛い」と須藤への辛辣なコメントを発した。ゲスト出演した小嶋陽菜は「いつかそういうメンバーも現れると思っていた」との見解を示し、峯岸みなみは「考えていたことが全て飛ぶくらい…もう何を言っても記事ならんやん」と嘆いた。一方で観客やNMB48のメンバーからは「おめでとう!」との祝福の声もあがるという、まさに愛憎入り混じる群像劇が全国に生中継されたのだ。

 過去の名シーンもまさに“仲間なのに戦わなければならない”選抜総選挙への必死の覚悟を物語る、生々しい喜怒哀楽がドラマティックに表現されてきた。第2回で大島優子に1位を譲り、第3回で再び1位に返り咲いた前田敦子が泣き叫ぶように訴えた「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください!」は、アイドル史に残る名言として知られている。

 また、同年はAKB48の横山由依が圏外から19位にランクイン(同回までは21位までが選抜)。よろけるような足取りでステージへ上がり、“過呼吸寸前”とも言える状態でマイク前でも震えながら涙した姿は、視聴者から放送事故とも評されたが、「命をかけていることが伝わった」という意見も。そのほかにも、篠田麻里子が壇上から「潰すつもりで来てください」と後輩にゲキを飛ばしたり、大島優子は指原に連覇を阻止され、「こんなおなかを抱えて笑ってしまう総選挙は初めてです」という世代交代の瞬間もあった。

 また、近年は上位メンバーが卒業を発表することも続き、まさに選抜総選挙は“人生の分岐点”としての側面も。そうした過去の名シーンは、生中継だからこそのハプニング的要素で盛り上がり、第5回の瞬間最高視聴率は32.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するなど、世間の耳目をさらってきたのだ。

■横並び状態だからこそ、“真の女王”の出現に期待

 完成された姿ではなく、成長途中の“努力の過程”を見せてファンを拡大してきた48グループのアイドルたち。選抜総選挙はその集大成としての場であるが、ランクインしたメンバーに対する祝福だけではない。編集されたアイドル番組とは異なり、選挙結果を受けてのアイドルの喜び、憎しみ、嫉妬、奮起、悲しみ、そういった生々しい一面をコンテンツにしてきたのがAKBの総選挙なのだ。

 誰が1位に輝くのか、誰が選抜メンバーになるのかは、AKBファンにとっては大いなる関心事ではある。しかし、アイドルファンだけでなく、世間が注目してきたのは、メンバーたちが“仲間なのに戦う”矛盾の中で序列を公開される葛藤を、泣き叫びながら言葉にするスピーチや予想しえない“ハプニング”であった。

 そんな、何が起こるかわからない運命の交差点で、“ドラマ”を演出するメンバーこそが世間の注目を集めるのではないだろうか。誰がハプニングを起こすのか、どんな名シーンが生まれるのか、そして10年目のAKB総選挙という大舞台をけん引するのは誰なのか。「誰が1位になっても初の女王」という状況だからこそ、順位には映らない“真の女王”が現れることに期待したい。



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